濡れ落ち葉随行でスーパへ行くものの
唯ポカンと待つのも退屈、売り場ブラつく
金銭経済感覚ゼロの身ながら
半額なら文句も無かろうと
鰯の甘露煮なるもの百五十六円を
家内のカートに放り込んだ
家内から叱られたが俺が食うと言った
昼食に一口つまんだら
所謂、アブラ回ってる感じ、やっぱり
半額はだめか
夕食に再度試す、今度はオーケー
すると昼は何だったのか??
家内には黙っておいて独り食う
男ありて独り鰯を食う
佐藤春夫 秋刀魚の歌
あはれ秋風よ情 〔 こころ 〕 あらば伝へてよ
男ありて
今日の夕餉 〔 ゆふげ 〕 に ひとり
さんまを食 〔 くら 〕ひて
思ひにふける と。
さんま、さんま
そが上に青き蜜柑の酸 〔 す 〕 をしたたらせて
さんまを食ふはその男がふる里のならひなり。
そのならひをあやしみてなつかしみて女は
いくたびか青き蜜柑をもぎて夕餉にむかひけむ。
あはれ、人に捨てられんとする人妻と
妻にそむかれたる男と食卓にむかへば、
愛うすき父を持ちし女の児 〔 こ 〕 は
小さき箸 〔 はし 〕 をあやつりなやみつつ
父ならぬ男にさんまの腸 〔 はら 〕 をくれむと言ふにあらずや。
あはれ
秋風よ
汝 〔 なれ 〕 こそは見つらめ
世のつねならぬかの団欒 〔 まどゐ 〕 を。
いかに
秋風よ
いとせめて
証 〔 あかし 〕 せよ かの一ときの団欒ゆめに非 〔 あら 〕 ずと。
あはれ
秋風よ
情あらば伝へてよ、
夫を失はざりし妻と
父を失はざりし幼児 〔 おさなご 〕 とに伝へてよ
――男ありて
今日の夕餉に ひとり
さんまを食ひて
涙をながす と。
さんま、さんま
さんま苦いか塩つぱいか。
そが上に熱き涙をしたたらせて
さんまを食ふはいづこの里のならひぞや。
あはれ
げにそは問はまほしくをかし。